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苔綴り

とある学生のブログ

ドイツの国歌の歴史

ドイツ国歌は、古典派を代表する作曲家であるフランツ・ヨーゼフ・ハイドンが作曲したものです。多分有名な人だと思うんですけど、僕は音楽についての知識がないので名前しか知りません。ハイドンがドイツ国歌のメロディーを作曲し、初めて演奏して披露したのは1797年なので、昔のことですが、それが今でも使われているのはすごいですね。

 

そんなドイツ国歌の歴史について前からちゃんと知っておきたいと思ったのですが、ドイツ国歌の歴史を知るにはドイツの歴史を知らなければなりません。自分は世界史をまじめに勉強してこなかったので、よくわからない部分も多かったのですが、一度ドイツの歴史について勉強しつつ国歌の歴史もまとめておこうと思い、この記事をかきました。ドイツの歴史については本当に簡単に勉強しただけなので、何か間違っている部分があったら教えてください。

 

まず、ドイツ国歌の歴史は神聖ローマ帝国の時代にさかのぼります。

神聖ローマ帝国と「皇帝讃歌」

 

神聖ローマ帝国は俗に「第一帝国」とも呼ばれる、中世から続いたドイツの帝国です。

f:id:mosise:20170221122518p:plain神聖ローマ帝国の国旗

この国に、ドイツ国歌の作曲者となるフランツ・ヨーゼフ・ハイドンが生まれます。

今では「国歌」という概念はどの国にもあるものですが、当時国歌がある国はとても少なく、「国歌」という概念も知られていませんでした。国歌の概念が広まるきっかけとなったのは、イギリスの国歌「神よ女王陛下を護り賜え」です。

youtu.be

その題名が示すとおり、君主(女王陛下)の統治が永く続くことをねがうような内容です。

イギリス国歌は1745年に初めて公の場で披露されて以来、伝統的に国歌として扱われています。当時国歌という概念がなかった他の国も後にイギリスにならってそれぞれ国歌を作るのですが、神聖ローマ帝国ハイドンもイギリス国歌に触発され、「皇帝讃歌」(Die Kaiserhymne)という曲を作曲します。ハイドンクロアチア民謡のメロディーを使い、この曲を作曲したと言われているようです。歌詞はLorenz Leopold Haschkaという人が作詞しました。この曲は1797年に、当時の皇帝フランツ2世の誕生日である2月12日に初めて演奏されました。

www.youtube.com 

歌詞

1. Gott erhalte Franz den Kaiser,
Unsern guten Kaiser Franz,
Hoch als Herrscher, hoch als Weiser,
Steht er in des Ruhmes Glanz;
Liebe windet Lorbeerreiser
Ihm zum ewig grünen Kranz.
Gott erhalte Franz den Kaiser,
Unsern guten Kaiser Franz!
Gott erhalte Franz den Kaiser,
Unsern guten Kaiser Franz!

2. Über blühende Gefilde
Reicht sein Scepter weit und breit;
Säulen seines Throns sind milde,
Biedersinn und Redlichkeit,
Und von seinem Wappenschilde
Strahlet die Gerechtigkeit.
Gott erhalte unsern Kaiser,
Unsern guten Kaiser Franz!
Gott erhalte unsern Kaiser,
Unsern guten Kaiser Franz!

3. Sich mit Tugenden zu schmücken,
Achtet er der Sorgen werth,
Nicht um Völker zu erdrücken
Flammt in seiner Hand das Schwert:
Sie zu segnen, zu beglücken,
Ist der Preis, den er begehrt,
Gott erhalte unsern Kaiser,
Unsern guten Kaiser Franz!
Gott erhalte unsern Kaiser,
Unsern guten Kaiser Franz!

4. Er zerbrach der Knechtschaft Bande,
Hob zur Freiheit uns empor!
Früh’ erleb’ er deutscher Lande,
Deutscher Völker höchsten Flor,
Und vernehme noch am Rande
Später Gruft der Enkel Chor:
Gott erhalte unsern Kaiser,
Unsern guten Kaiser Franz!
Gott erhalte unsern Kaiser,
Unsern guten Kaiser Franz!

歌詞の中にFranz(フランツ)という語が出てきますが、これは皇帝のフランツ2世のことで、歌詞の内容はイギリス国歌のように皇帝フランツ2世を讃えるものです。

f:id:mosise:20170221145608p:plainフランツ2世

作曲した当時、神聖ローマ帝国でこの曲が「国歌」として制定されることはありませんでしたが、こうして生まれた「皇帝讃歌」は、現在のドイツ国歌にも使われる有名な曲になります。

 

オーストリア帝国と国歌

 

さて、神聖ローマ帝国ですが、1806年にフランツ2世が帝位を辞退し、ついに解体してしまいます。その後、神聖ローマ帝国皇帝だったフランツ2世は今度は新しくオーストリア帝国皇帝の「フランツ1世」として即位し、オーストリア帝国が成立します。

f:id:mosise:20170221145145p:plainオーストリア帝国の国旗

ハイドンが作曲した「皇帝讃歌」はフランツ1世を讃える内容なので、オーストリア帝国では国歌として使用されることとなります。

しかし1835年、皇帝フランツ1世が薨去し、息子のフェルディナント1世が次の皇帝になります。

f:id:mosise:20170221150055p:plainフェルディナント1世

 

ここで、国歌「皇帝讃歌」に問題が出てきます。「皇帝讃歌」の歌詞はFranz(フランツ)という言葉が使われていて、フランツさんが皇帝の時はこれで問題ありませんが、皇帝の名前が変わっちゃったので歌詞が合わないのです。そこでこの年、新しい歌詞をつくりました。Joseph Christian von Zedlitzという人の作詞です。残念ながら動画がありませんので歌詞だけ載せておきます。

歌詞

1. Segen Öst’reichs hohem Sohne,
Unserm Kaiser Ferdinand!
Gott von Deinem Wolkenthrone
Blick’ erhörend auf dies Land!
Laß Ihn, auf des Lebens Höhen
Hingestellt von Deiner Hand,
Glücklich und beglückend stehen,
Schütze unsern Ferdinand!
Glücklich und beglückend stehen,
Schütze unsern Ferdinand!

2. Alle Deine Gaben spende
Gnädig Ihm und Seinem Haus’;
Alle deine Engel sende,
Herr, auf Seinen Wegen aus!
Gib, daß Recht und Licht und Wahrheit,
Wie sie Ihm im Herzen glüh’n,
Lang’ in reiner, ew’ger Klarheit
Noch zu unserm Heile blüh’n!
Lang’ in reiner, ew’ger Klarheit
Noch zu unserm Heile blüh’n!

3. Palmen laß Sein Haupt umkränzen,
Scheuche Krieg und Zwietracht fort;
Laß’ Ihn hoch und herrlich glänzen,
Als des Friedens Schirm und Hort!
Laß’ Ihn, wenn Gewitter grauen,
Wie ein Sternbild hingestellt,
Tröstend Licht hernieder thauen,
In die sturmbewegte Welt!
Tröstend Licht hernieder thauen,
In die sturmbewegte Welt!

4. Holde Ruh’ und Eintracht walte,
Wo er sanft das Scepter schwingt;
Seines Volkes Liebe halte
Freudig Seinen Thron umringt;
Unaufhörlich festgeschlungen
Bleibe ewig dieses Band!
Rufet “Heil” mit tausend Zungen,
“Heil dem milden Ferdinand!”
Rufet “Heil” mit tausend Zungen,
“Heil dem milden Ferdinand!”

ちゃんとFerdinand(フェルディナント)という言葉がはいってますね。このバージョンの歌詞はフェルディナント1世の在位の間つかわれました。この「皇帝讃歌」はよく、「神よ皇帝フランツを護り賜え」という名前で呼ばれるのをネットでは見ますが、この題名はオリジナルの、つまり歌詞を変える前の歌詞からこう呼ばれているんですよね。でもこうしてこの曲には幾つか歌詞にバージョンがあったことを踏まえると、「皇帝讃歌」と呼ぶ方がもしかしたら合理的かもしれません。さて、それから年が過ぎ1848年になるとフェルディナント1世も死んでしまいます。次の皇帝はフランツ・ヨーゼフ1世です。

f:id:mosise:20170221152250p:plainフランツ・ヨーゼフ1世

ここにきて、オーストリア帝国初代皇帝と同じ「フランツ」の名を持つ皇帝が即位しました。じゃあ、国歌の歌詞も最初の「フランツ」が入っているバージョンに戻せるのでは?

ということでこの年、国歌の歌詞は元のものに戻りました。

 

1854年、理由はよくわかりませんが国歌の歌詞が新しく書き直され、オーストリア帝国で話されている様々な言語に翻訳されました。オーストリア帝国は他民族国家だったので、ドイツ語を話す人以外にもハンガリー語チェコ語など、いろいろな言語が話されていたようです。

youtu.be

この動画では、1854年にできた歌詞の1番が歌われています。(この動画で1番の次に歌っているのが何番なのか不明です。分かる人がいたら教えてください!)

歌詞

1. Gott erhalte, Gott beschütze
Unsern Kaiser, unser Land!
Mächtig durch des Glaubens Stütze,
Führt er uns mit weiser Hand!
Laßt uns seiner Väter Krone
Schirmen wider jeden Feind!
Innig bleibt mit Habsburgs Throne
Österreichs Geschick vereint!
Innig bleibt mit Habsburgs Throne
Österreichs Geschick vereint!

2. Fromm und bieder, wahr und offen
Laßt für Recht und Pflicht uns stehn;
Laßt, wenns gilt, mit frohem Hoffen
Mutvoll in den Kampf uns gehn
Eingedenk der Lorbeerreiser
Die das Heer so oft sich wand
Gut und Blut für unsern Kaiser,
Gut und Blut fürs Vaterland!
Gut und Blut für unsern Kaiser,
Gut und Blut fürs Vaterland!

3. Was der Bürger Fleiß geschaffen
Schütze treu des Kaisers Kraft;
Mit des Geistes heitren Waffen
Siege Kunst und Wissenschaft!
Segen sei dem Land beschieden
Und sein Ruhm dem Segen gleich;
Gottes Sonne strahl’ in Frieden
Auf ein glücklich Österreich!
Gottes Sonne strahl’ in Frieden
Auf ein glücklich Österreich!

4. Laßt uns fest zusammenhalten,
In der Eintracht liegt die Macht;
Mit vereinter Kräfte Walten
Wird das Schwere leicht vollbracht,
Laßt uns Eins durch Brüderbande
Gleichem Ziel entgegengehn
Heil dem Kaiser, Heil dem Lande,
Österreich wird ewig stehn!
Heil dem Kaiser, Heil dem Lande,
Österreich wird ewig stehn!

このバージョンの歌詞はこの後もずっと使われたようです。

 

オーストリアハンガリー帝国と国歌

 

1866年、オーストリア帝国プロイセン王国と戦争をします。普墺戦争と呼ばれる戦争です。オーストリア帝国は「ドイツ連邦」という独立国の集合体で盟主としての役割をはたしていましたが、普墺戦争に敗れてしまい、ドイツ連邦から脱退することになりました。ドイツ人が実権を握っていたオーストリア帝国は敗戦後、国内で不満を募らせる諸民族を抑えるため、マジャール人(今のハンガリーの主要民族)の王国建国を許し、オーストリア皇帝がハンガリー王を兼任するかたちで、オーストリアハンガリーの二つの王国からなる連邦国家を作りました。これが「二重帝国」とも呼ばれる、オーストリアハンガリー帝国です。

f:id:mosise:20170222223114p:plainオーストリアハンガリー帝国の国旗

オーストリア帝国から二重帝国になって、国家体制は変わりましたが皇帝は変わったわけではなく、フランツ・ヨーゼフ1世がそのまま皇帝でありました。国歌も、「皇帝讃歌」がそのままつかわれました。歌詞も1854年に新しく書かれたものが使われていたようです。(しかしこれは何となくですが、Youtubeなどでは1854年版の歌詞よりも、オリジナルの「フランツ」版のほうがはるかに有名なようで、逆に1854年版はあまり知られていないように思います。もしかしたら、「フランツ」版の歌詞も二重帝国時代に普通に使われていたのかも...?)

 

「皇帝讃歌」は二重帝国では歌詞が変わることなくずっと国歌として使われていました。しかしオーストリアは1908年にボスニア・ヘルツェゴビナを併合し、ボスニアオーストリアに対する不満が高まります。そんな中、1914年にオーストリア皇位継承者のフランツ・フェルディナント夫妻がサライェヴォでセルビア人青年に殺害されてしまいます。このサライェヴォ事件により、第一次世界大戦が勃発してしまいました。

 

1918年、オーストリアハンガリー帝国は諸民族の独立と皇帝カール1世の亡命により崩壊してしまいました。国歌「皇帝讃歌」も帝国解体と共にその歴史を終えましたが、ハイドンが作曲したこのメロディーは、今後も受け継がれることになります。

 

プロイセン王国と王室歌

 

今までずっとオーストリアの話をしてきましたが、もう一つドイツ人の国家といえば、プロイセン王国です。先ほど、普墺戦争オーストリア帝国プロイセン王国が戦い、オーストリアが負けた話をしましたが、勝者となったプロイセン王国は1867年に「北ドイツ連邦」を結成します。これは後の1871年にドイツ帝国に発展します。

f:id:mosise:20170223001521p:plainプロイセン王国の国旗

プロイセン王国には「勝者の誉れ高き汝に万歳」(Heil dir im Siegerkranz)という王室歌(Royal anthem)がありました。汝とはプロイセン王のことですね。

youtu.be

1. Heil dir im Siegerkranz,
Herrscher des Vaterlands!
Heil, Kaiser, dir!
Fühl in des Thrones Glanz
Die hohe Wonne ganz,
Liebling des Volks zu sein!
Heil Kaiser, dir!

2. Nicht Roß und Reisige
Sichern die steile Höh’,
Wo Fürsten steh’n:
Liebe des Vaterlands,
Liebe des freien Manns
Gründen den Herrscher Thron
Wie Fels im Meer.

3. Heilige Flamme, glüh’,
Glüh’ und erlösche nie
Für’s Vaterland!
Wir alle stehen dann
Mutig für einen Mann,
Kämpfen und bluten gern
Für Thron und Reich!

4. Handel und Wissenschaft
Heben mit Mut und Kraft
Ihr Haupt empor!
Krieger und Heldentat
Finden ihr Lorbeerblatt
Treu aufgehoben dort,
An deinem Thron!

5. Sei, Kaiser Wilhelm, hier
Lang’ deines Volkes Zier,
Der Menschheit Stolz!
Fühl’ in des Thrones Glanz,
Die hohe Wonne ganz,
Liebling des Volkes zu sein!
Heil, Kaiser, dir!

 

分かる人はすぐ分かるかもしれませんが、これはイギリス国歌と同じメロディーです。パクリじゃねーか!と思いますが、当時イギリスから国歌という概念を輸入したばかりで、オリジナルの国歌をつくるのが難しかったのでしょう。これ以外にもイギリス国歌と同じメロディーの曲はあるので、不思議ではありません。

koketsuzuri.hatenablog.com くわしくはここを見よう!

 

ちなみに王室歌というのは、そのまんま王室を讃える歌のことです。デンマークスウェーデン、タイなどいくつかの国は王室歌が存在しています。この曲はイギリス国歌のメロディーに1790年にHeinrich Harriesという人が歌詞をつけたものですが、女王陛下の歌であるイギリス国歌から国歌の概念を輸入し、王国であるプロイセンで歌詞をつけたのですから王室歌ができるのも自然です。ではプロイセン王国に国歌はなかったのかというと、「プロイセンの歌」(Preußenlied)という歌があったようです。

www.youtube.com

この動画では、1番、3番、4番、6番が歌われています。

1.Ich bin ein Preuße, kennt ihr meine Farben?
Die Fahne schwebt mir weiß und schwarz voran;
daß für die Freiheit meine Väter starben,
das deuten, merkt es, meine Farben an.
Nie werd ich bang verzagen,
wie jene will ich's wagen
sei's trüber Tag, sei's heitrer Sonnenschein,
ich bin ein Preuße, will ein Preuße sein. 

 

2.Mit Lieb und Treue nah ich mich dem Throne,
von welchem mild zu mir ein Vater spricht;
und wie der Vater treu mit seinem Sohne,
so steh ich treu mit ihm und wanke nicht.
Fest sind der Liebe Bande,
Heil meinem Vaterlande!
Des Königs Ruf dring in das Herz mir ein:
Ich bin ein Preuße, will ein Preuße sein.

 

3.Nicht jeder Tag kann glühn im Sonnenlichte;
ein Wölkchen und ein Schauer kommt zur Zeit.
Drum lese keiner mir es im Gesichte,
daß nicht der Wünsche jeder mir gedeiht.
Wohl tauschten nah und ferne
mit mir gar viele gerne;
ihr Glück ist Trug und ihre Freiheit Schein:
Ich bin ein Preuße, will ein Preuße sein.

 

4.Und wenn der böse Sturm mich wild umsauset,
die Nacht entbrennet in des Blitzes Glut,
hat's doch schon ärger in der Welt gebrauset,
und was nicht bebte, war des Preußen Mut.
Mag Fels und Eiche splittern,
ich werde nicht erzittern;
Es stürm, es krach, es blitze wild darein:
Ich bin ein Preuße, will ein Preuße sein.

 

5.Wo Lieb und Treu sich um den König reihen,
wo Fürst und Volk sich reichen so die Hand,
da muß des Volkes wahres Glück gedeihen,
da blüht und wächst das schöne Vaterland.
So schwören wir aufs neue
dem König Lieb und Treue!
Fest sei der Bund! Ja schlaget mutig ein:
Wir sind ja Preußen, laßt uns Preußen sein.

 

6.Und wir, die wir am Ost- und Nordseestrande,
als Wacht gestellt, gestählt von Wog' und Wind,
wir, die seit Düppel durch des Blutes Bande
an Preußens Thron und Volk gekettet sind,
wir woll'n nicht rückwärts schauen,
nein, vorwärts mit Vertrauen!
Wir rufen laut in alle Welt hinein:
Auch wir sind Preußen, wollen Preußen sein! 

 

7.Des Preußen Stern soll weithin hell erglänzen,
des Preußen Adler schweben wolkenan,
des Preußen Fahne frischer Lorbeer kränzen,
des Preußen Schwert zum Siege brechen Bahn.
Und hoch auf Preußens Throne
im Glanz von Friedrichs Krone
beherrsche uns ein König stark und mild,
und jedes Preußen Brust sei ihm ein Schild!

しかしこの曲、Wikipediaによると1830年から1840年の間国歌だったと書かれています。プロイセン王国は1871年にドイツ帝国が成立するまで続いているのですが、1840年以降どんな曲が国歌だったのかはわかりません。もしかしたら国歌はなく、「勝者の誉れ高き汝に万歳」が実質国歌としてつかわれていた可能性もあります。

 

それと、Wikipediaには「「プロイセンの歌」は前国歌の「Borussia」に取って替わった」と書いてあります。Borussiaという歌について、ドイツ語版WikipediaGoogle翻訳で英訳してみると、「Borussiaはプロイセンの愛国歌であり、一時的に国歌の地位を得ていた」とあります。また1820年に、プロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム3世の誕生日である8月3日にこのBorossiaを演奏し、同年国歌になったという記述もあります。

この曲はYouTubeで探しても見つかりませんでした(´・ω・`)

 

ドイツ帝国と国歌

 

1871年、プロイセン王がドイツ皇帝になる形で、ドイツ帝国が誕生します。第一帝国である神聖ローマ帝国に次ぐ、第二帝国です。

f:id:mosise:20170223001412p:plainドイツ帝国の国旗

ドイツ帝国では、プロイセン王国の「勝者の誉れ高き汝に万歳」が国歌となり、これがずっとつかわれました。しかしサライェヴォ事件から発生した第一次世界大戦ドイツ帝国は敗れ、革命が起き(ドイツ革命)、帝国は崩れてしまいました。国歌「勝者の誉れ高き汝に万歳」も当然使われなくなりました。

 

ヴァイマル共和国と国歌

 

ドイツは戦後、1919年にヴァイマル憲法が公布されヴァイマル共和国となります。正式な国号は「ドイツ国」だったみたいですが、現在と紛らわしいのでヴァイマル共和国と呼びます。国旗は今と同じになります。

f:id:mosise:20170303192015p:plainヴァイマル共和国の国旗

ヴァイマル共和国は共和制なので、「皇帝万歳!」というような歌詞の「勝者の誉れ高き汝に万歳」はもう使えません。

そこで新たに「ドイツの歌」(DeutschlandliedともLied der Deutschenとも言う)が国歌になりました。

www.youtube.com

歌詞

1.Deutschland, Deutschland über alles,
Über alles in der Welt,
Wenn es stets zu Schutz und Trutze
Brüderlich zusammenhält,
Von der Maas bis an die Memel,
Von der Etsch bis an den Belt –
Deutschland, Deutschland über alles,
Über alles in der Welt!

2.Deutsche Frauen, deutsche Treue,
Deutscher Wein und deutscher Sang
Sollen in der Welt behalten
Ihren alten schönen Klang,
Uns zu edler Tat begeistern
Unser ganzes Leben lang –
Deutsche Frauen, deutsche Treue,
Deutscher Wein und deutscher Sang!

3.Einigkeit und Recht und Freiheit
Für das deutsche Vaterland!
Danach lasst uns alle streben
Brüderlich mit Herz und Hand!
Einigkeit und Recht und Freiheit
Sind des Glückes Unterpfand –
Blüh’ im Glanze dieses Glückes,
Blühe, deutsches Vaterland!

 

聴けばわかりますが、これはオーストリア帝国オーストリアハンガリー帝国の国歌だった「皇帝讃歌」と同じメロディーで、歌詞を替えたものです。

この歌詞を書いたのは、August Heinrich Hoffmann von Fallerslebenという人で、1841年に作詞されたので、けっこう昔からこの歌詞は存在していました。ヴァイマル共和国国歌になったのは1922年のことで、初代大統領のフリードリヒ・エーベルト(Friedrich Ebert)がこれを国歌として制定しました。

 

しかし1933年、ナチ党を率いるヒトラーが政権につき、ヴァイマル憲法は事実上停止され、翌年1934年には「総統」と呼ばれる国家元首の地位を獲得し、ドイツの独裁者となったことで、ヴァイマル共和国は終焉を迎えてしまいました。

 

ナチス・ドイツと国歌

 

独裁者となったヒトラーはドイツを支配し、ドイツはナチズム思想の全体主義国家となります。第三帝国です。この頃も国号は「ドイツ国」でしたが、ナチス・ドイツでは「大ドイツ国」という国号も用いられたようです。

f:id:mosise:20170307133531p:plainナチス・ドイツの国旗

ナチス・ドイツが第三帝国と称したのは、第二帝国の伝統を受け継ぐという意図があったようで、それは同時にヴァイマル共和国を否定することでもあります。実際ヒトラーによってヴァイマル憲法は無効となり、国旗も国章も変更されました。その調子でいくと国歌も変更されそうなものですが、国歌は変更されず、ヴァイマル共和国時代の「ドイツの歌」がナチス・ドイツでも国歌として使われました。

「ドイツの歌」の歌詞は、Deutschland, Deutschland über alles,
Über alles in der Welt,(ドイツよ、ドイツよ、すべてのものの上にあれ。この世のすべてのものの上にあれ)という文で始まります。この歌詞が、侵略的なナチズムの思想に合致する解釈をされて使われたようです。

 

ナチス・ドイツの国歌と言えば、「ドイツの歌」とともにナチ党(国家社会主義ドイツ労働者党)の党歌である「ホルスト・ヴェッセルの歌」(Horst-Wessel-Lied)もよく使用されていたとして有名です。「ホルスト・ヴェッセル」とは、この曲の作詞者の名前です。

www.youtube.com 和訳がどれくらい正確かは分からないので、参考程度に見るのがいいでしょう。

 

第二帝国を継承しようとした第三帝国第二次世界大戦で敗れ崩壊するという、まさに第二帝国と同じような結末をたどりました。1945年、ドイツは連合国に降伏します。

 

東ドイツと国歌

 

戦後、ドイツは連合国により占領されていましたが、ソ連の占領していた地域に東ドイツ(ドイツ民主共和国)、アメリカ、イギリス、フランスの占領していた地域に西ドイツ(ドイツ連邦共和国)が誕生しました。

f:id:mosise:20170307151344p:plain東ドイツの国旗

東ドイツでは、国が成立した1949年に新しい国歌「廃墟からの復活」(Auferstanden aus Ruinen)が誕生しました。第二次世界大戦での荒廃から立ち直るという意志が題名から伝わってきます。

www.youtube.com

歌詞

1. Auferstanden aus Ruinen
und der Zukunft zugewandt,
laßt uns Dir zum Guten dienen,
Deutschland, einig Vaterland.
Alte Not gilt es zu zwingen,
und wir zwingen sie vereint,
denn es muß uns doch gelingen,
daß die Sonne schön wie nie
über Deutschland scheint,
über Deutschland scheint.

2. Glück und Friede sei beschieden
Deutschland, unserm Vaterland.
Alle Welt sehnt sich nach Frieden,
reicht den Völkern eure Hand.
Wenn wir brüderlich uns einen,
schlagen wir des Volkes Feind!
Laßt das Licht des Friedens scheinen,
daß nie eine Mutter mehr
ihren Sohn beweint,
ihren Sohn beweint

3. Laßt uns pflügen, laßt uns bauen,
lernt und schafft wie nie zuvor,
und der eignen Kraft vertrauend,
steigt ein frei Geschlecht empor.
Deutsche Jugend, bestes Streben,
unsres Volks in dir vereint,
wirst du Deutschland neues Leben.
Und die Sonne schön wie nie
über Deutschland scheint,
über Deutschland scheint.

 

個人的にこの国歌は好きなんですが、この国歌は1971年になるとめったに歌われず、メロディーを演奏されるのみになってしまいます。それは「ドイツ、一つの祖国」(Deutschland, einig Vaterland. )という歌詞が東西分裂状態にあるドイツの現状にそぐわないとされたためです。

 

1990年に東ドイツが西ドイツに編入されるという形で東西ドイツが統一を果たすと、この国歌は歴史を終えました。

 

西ドイツ、現在のドイツと国歌

 

f:id:mosise:20170307151507p:plain西ドイツ、現在のドイツの国旗

東ドイツでは1949年に国が成立するとすぐ国歌が誕生したのに対して、西ドイツでは1949年から1950年の少しの間、国歌がない時期がありました。この国歌空白期間には「我は汝に捧げり」(Ich hab mich ergeben)という愛国歌が代わりに使われたようです。日本語では「我は捧げり」とも呼ばれるようです。

www.youtube.com

歌詞

1. Ich hab’ mich ergeben
mit Herz und mit Hand,
Dir Land voll Lieb’ und Leben,
mein deutsches Vaterland!
Dir Land voll Lieb’ und Leben,
mein deutsches Vaterland!

2. Mein Herz ist entglommen,
dir treu zugewandt,
Du Land der Frei’n und Frommen,
du herrlich Hermannsland!
Du Land der Frei’n und Frommen,
du herrlich Hermannsland!

3. Will halten und glauben
an Gott fromm und frei;
Will Vaterland dir bleiben
auf ewig fest und treu.
Will Vaterland dir bleiben
auf ewig fest und treu.

4. Ach Gott, tu’ erheben
mein jung Herzensblut
Zu frischem freud’gem Leben,
zu freiem frommem Mut!
Zu frischem freud’gem Leben,
zu freiem frommem Mut!

5. Laß Kraft mich erwerben
in Herz und in Hand,
Zu leben und zu sterben
fürs heil’ge Vaterland!
Zu leben und zu sterben
fürs heil’ge Vaterland!

 

この曲はなんとも興味深い事実があります。それはなんと、現在のミクロネシア連邦の国歌にこの曲のメロディーが使われているということです。

www.youtube.com

ミクロネシア連邦は一時期ドイツの保護領だったので、その時にこのメロディーがミクロネシアに入ってきたのでしょう。

 

話を戻して西ドイツの国歌ですが、1950年に新しい国歌「ドイツへの讃歌」(Hymne an Deutschland)が作られました。西ドイツがこの国歌をつくった当時、ナチス・ドイツ時代の「ドイツの歌」の人気がまだけっこうあったようですが、やはりナチス時代に使われていたことと、敗戦時に連合国に「ドイツの歌」が禁止されていたこともあり、新しい国歌を作るに至ったようです。

www.youtube.com メロディーのみの動画しか見つかりませんでした。

歌詞

1. Land des Glaubens, deutsches Land,
Land der Väter und der Erben,
Uns im Leben und im Sterben
Haus und Herberg’, Trost und Pfand,
Sei den Toten zum Gedächtnis,
Den Lebend’gen zum Vermächtnis,
Freudig vor der Welt bekannt,
Land des Glaubens, deutsches Land!

2. Land der Hoffnung, Heimatland,
Ob die Wetter, ob die Wogen
Über dich hinweggezogen,
Ob die Feuer dich verbrannt,
Du hast Hände, die da bauen,
Du hast Herzen, die vertrauen,
Lieb’ und Treue halten stand,
Land der Hoffnung, Heimatland!

3. Land der Liebe, Vaterland,
Heil’ger Grund, auf den sich gründet,
Was in Lieb’ und Leid verbündet
Herz mit Herzen, Hand mit Hand.
Frei, wie wir dir angehören
Und uns dir zu eigen schwören,
Schling’ um uns dein Friedensband,
Land der Liebe, Vaterland!

 

残念ながら、この国歌は全然人気がでなかったようです。YouTubeで探しても、メロディーのみの動画しか見つからず、歌ってる動画が見つかりませんでした。それほど認知度も低かったのでしょう。これでは国歌といえる状態ではありません。結局2年後の1952年、「ドイツの歌」を国歌に復活させることになります。

しかし、ただ復活させるわけではありません。「ドイツの歌」は歌詞3番までありますが、国歌として復活させたのは3番のみです。1番の歌詞はナチス時代によく使われたのと、歌詞中に登場する地名が現在はドイツの領土じゃないという問題がありました。「マース川からメーメル川まで、エチュ川からベルト海峡まで」(Von der Maas bis an die Memel,Von der Etsch bis an den Belt,)という部分がそれです。2番の歌詞は女性差別的な歌詞が原因で、採用されませんでした。参考程度に、2番の歌詞の和訳をWikipediaから引用します。

ドイツの女性、ドイツの忠誠、
ドイツのワイン、ドイツの歌は
古からの美しき響きを
この世に保って
我々を一生の間
高貴な行いへと奮い立たせねばならぬ
ドイツの女性よ、ドイツの忠誠よ、
ドイツのワインよ、ドイツの歌よ

 こうして、3番の歌詞だけが西ドイツの国歌の歌詞となりました。

www.youtube.com 

歌詞

Einigkeit und Recht und Freiheit
Für das deutsche Vaterland –
Danach lasst uns alle streben
Brüderlich mit Herz und Hand!
Einigkeit und Recht und Freiheit
Sind des Glückes Unterpfand.
Blüh’ im Glanze dieses Glückes,
Blühe, deutsches Vaterland!
Blüh’ im Glanze dieses Glückes,
Blühe, deutsches Vaterland!

 

この西ドイツ「ドイツの歌」はその後も使われ続けました。1990年、西ドイツは東ドイツを編入する形で東西統一を果たしました。その際、西ドイツの国歌がそのまま引き継がれ、現在に至ります。統一の際、東ドイツは「廃墟からの復活」を統一ドイツの国歌にするよう提案したようで、確かに統一が果たされれば「ドイツ、一つの祖国」という問題の歌詞も不適切なものではなくなります。しかし西ドイツによってその提案は拒否されました。

こうして、神聖ローマ帝国時代にハイドンが作曲した曲が、現在のドイツ国歌にも引き継がれました。

 

加筆(2017/3/8)

現在では、ドイツ国歌はかつての3番の歌詞を歌うのみになっていますが、この前このようなニュースがありました。

www.cnn.co.jp

ハワイで行われた女子テニスのドイツ対アメリカの試合で、ドイツ国歌を歌う場面であやまって1番の歌詞を歌ってしまい、アメリカのテニス協会が謝罪していたという記事です。ドイツチームのメンバーがこれを「最悪の経験だった」と語っていることや、観客は別の歌詞(おそらく3番)を歌っていたことから、ドイツで1番の歌詞を歌うことはなく、また歌うべきではないという認識があるということがよくわかります。